胃がんの治療法としては、以前は外科手術が主流でしたが、現在では初期の胃がんの多くは、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)で治療されるようになっています。
 外科手術では、お腹を切って、胃の一部あるいは全部を切除するため、術後に後遺症が出るケースがあります。一方、ESDではお腹を切らないため痛みは基本的にほとんどなく、胃を全部残すことが出来るため、後遺症も基本的に起こりません。患者様の元気度にもよりますが、90歳を超えるようなご高齢の患者様でも、ESDを受けていただくことができます。

胃がんの内視鏡治療

初期の胃がん

胃がんは、”早期胃がん”と呼ばれる初期の状態では、ほとんど自覚症状がありません。症状がないため、気が付かない間に病態が進行していきます。症状がなくても、人間ドックなどで定期的に胃カメラを受けることで、初期の状態で発見することが出来ます。
この段階であれば、ESDの適応になる場合が多いです。

病態が進行した胃がん

胃がんは病態が進行すると、大きくなり、潰瘍を形成するなどの変化を起こします。
それに伴い、胃がんが胃の出口をふさぎ食べたものが奥に流れなくなる、出血して貧血を起こす、がんが転移するなどの問題が起きます。
この状態になると、ESDの適応はなく、外科手術など他の治療法の検討が必要です。

胃ESDにおける当科の工夫

胃がんのESDは、穿孔(胃の壁に穴があくこと)のリスク、治療時間が長いなどの問題があります。この問題を克服するため、当科はS-Oクリップという処置具を活用しています。当科で行った研究では、従来の方法に比べ、S-Oクリップを用いることで約40%の治療時間の短縮が得られました(Gastrointestinal Endoscopy 誌 2021年5月号掲載)。穿孔のリスク低下も期待できるため、患者様にとってメリットがある方法です。

胃がんの内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の実際

ここでは、S-Oクリップ(洗濯ばさみにバネとヒモが付いたような処置)を用いた、胃がんに対するESDをご説明します。当科では、S-Oクリップを用いた方法を研究しており、有効性を報告して来ました。研究内容は、Gastrointestinal Endoscopy 誌 (2021年)、Surgical Endoscopy 誌(2020年)、VideoGIE 誌(2019年)に掲載されています。
黄色い矢印の内側に約 2 cmの胃がんを認めます。
特殊なモード(NBI)で胃がんの範囲を確認し、胃がんの外側に電気メスで目印となるマークを付けます。
胃がんの周りにマークを付けました。
マークの少し外側を電気メスで切開しました。この後、粘膜の下の組織(粘膜下層)を剥離しますが、今はまだ粘膜下層があまり見えていない状態です。
S-Oクリップを病変に取り付け、もう一つのクリップで紐の部分を対側の胃壁に留置します。こうすることで、S-Oクリップのバネの部分が伸びて、粘膜下層を展開します。
粘膜下層(青い部分)が展開しており、電気メスで剥がしやすくなっています。
胃がんの切除を完了しました。切除部位は一時的に人工的な胃潰瘍が出来ますが、2か月程度で治ります。
胃がんをESDで切除し、体外に取り出し、ピンで伸ばして固定しています。周りの白い点は電気メスで付けたマークです。顕微鏡での判定(病理検査)で、胃がんは完全に切除されており、治癒と判定されました。