食道がんは、病態の進行が比較的早く、転移しやすい厄介な病気です。食道がんの治療としては、外科手術、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)などがあります。
 食道がんの外科手術は広範囲に手術操作が加わるため、体への負担が大きい治療です。一方、ESDは胸やお腹を切らなくてもすみ、食道も残るため、体への負担が少ない治療です。初期の食道がんであれば、ESDで外科手術と同等の治療効果が期待できます。

食道がんの内視鏡治療

初期の食道がん

黄色い矢印で示した範囲に、初期の食道がんがあります。この段階なら、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)で治癒が期待できます。
食道がんは初期の状態では、症状がほとんどありません。初期の状態で発見するためには、症状がなくても、定期的に胃カメラを受けることが重要です。

病態が進行した食道がん

黄色い矢印で示した範囲に、病態が進行した食道がんがあります。この段階になると、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の適応はありません。外科手術、抗がん剤治療、放射線治療などを検討する必要があります。
なお、この段階になると、ご飯が通りにくくなり、つかえ感などの症状が出てきます。

食道ESDにおける当科の工夫(処置具の活用)

食道がんの内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)は、穿孔(せんこう:食道に穴があくこと)が起こると重篤な合併症が起きる可能性があるため、注意が必要です。糸付きクリップと呼ばれる処置具を用いることで、穿孔のリスク低下、治療時間の短縮が報告されており、当科ではこの方法を用いています。
※画像はClinical Endoscopy 2012; 45(4): 375-378 から引用

食道がんの内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の実際

がんの範囲を確認するため、食道を薬液で染色しました。黄色っぽい部分が食道がんです。食道全体に広がっています。
ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)で食道がんを切除しました。広範な食道がんだったため、食道の粘膜を全周性に切除しています。

 

広範囲の食道がんをESDで切除すると、術後に食道が狭くなる場合があり、つかえ感などが生じる可能性があります。当科では、切除面に薬剤を注入することで、食道が狭くなるのを予防しています。
切除した病変を体外で展開した後、ピンで伸ばして固定し、薬液で染色しています。
黄色っぽい部分が食道がんです。非常に大きな食道がんですが、顕微鏡での判定(病理検査)で、完全に切除されており、治癒と判定されました。
ESDから数か月後の胃カメラの写真です。ESDで食道がんを切除した部分は粘膜で覆われており、治っています。食道の内側が狭くもなることもありませんでした。