大腸がんは、早期の状態でも、病変が大きい場合は外科手術になるのが以前は常識でした。近年は、病変が大きくても、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)で治療されることが多くなっています。
 ESDは外科手術と違って、お腹を切らなくてもすむため、患者様にとって体に優しい治療法と言えます。大腸におけるESDは、内視鏡の操作が難しく、熟練が必要です。また、病変の部位、粘膜の癒着(線維化)の有無などにより難易度に幅があります。

大腸がんの内視鏡治療

早期の大腸がん

大腸がんは早期の状態であれば、サイズが大きくても内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)により、お腹を切らなくても切除することが出来ます。黄色い矢印の内側にあるのは、大腸がんです(凹凸を分かりやすくするため、青い色素で染色しています)。約 5 cmと大きいですが、早期がんにとどまっているため、ESDの適応です。

病態が進行した大腸がん

この段階になると、ESDの適応はなく、外科手術など他の治療法の検討が必要です。
大腸がんは病態が進行すると、大きくなり、便の流れを妨げるようになります。そのため、便が通りにくくなり、便秘、便が細くなる、腹痛、おなかの張りなどの症状が現れます。
最終的には、がんが大腸の中をふさいでしまい、腸閉塞(ちょうへいそく)の状態になってしまいます。このような状態になる前に、がんを発見し、治療することが重要です。

大腸ESDにおける当科の工夫
(Underwater ESD)

通常、ESDはガスで膨らませた腸管の中で行われますが、生理食塩水で膨らませた腸管の中でESDを行う方法(Underwater ESD)もあります。この方法では、通常の方法と比較し、視野が良くなる、浮力や水圧により粘膜の下の組織を展開しやすくなるなどの効果が得られるため、大腸ESDの際、活用しています。当科では、この方法の有効性を論文などで報告して来ました。デメリットとして処置中に発生する気泡による視野障害がありましたが、この問題の解決を目指し、気泡排出口付きフード、持続的低水圧剥離法といった新しい処置具や剥離法を開発しました。
※関連論文
[1] Nagata M. Usefulness of underwater endoscopic submucosal dissection in saline solution with a monopolar knife for colorectal tumors (with videos). Gastrointestinal Endoscopy 2018;87:1345–1353.
[2] Nagata M. Underwater endoscopic submucosal dissection in saline solution using a bent-type knife for duodenal tumor. VideoGIE 2018;3:375–377.
[3] Nagata M. Tapered hood with wide holes in its sides for efficient air bubble removal during underwater endoscopic submucosal dissection. Digestive Endoscopy 2022;34:654.
[4] Nagata M. Underwater endoscopic submucosal dissection using a tapered hood with air bubble outlets for a subcircumferential duodenal tumor. Digestive Endoscopy 2024;36:225-227.
[5] Nagata M. Continuous low water pressure dissection technique minimizing air bubbles during underwater endoscopic submucosal dissection. Endoscopy 2024;56:E699-E700.

大腸がんの早期発見のために

大腸がんを早めに発見するためには、大腸カメラがお勧めです。大腸カメラは「痛い、苦しい」と思われがちですが、最近は大腸カメラの挿入法や機器の進歩によって、以前よりも楽な検査になってきています。また、鎮静剤の使用により、眠った状態で受けることも出来ます。
なお、大腸がんは40歳以上になると増えていきます。大腸がんは初期はほとんど自覚症状がないため、40歳以上になったら、症状がなくても大腸カメラをご検討下さい。